タイトル


丸


空でもなく
海でもなく

僕らの宇宙は手に触れる

冷蔵庫が眠った部屋で
空気の薄い教室で
「昔はさ」と切り出したカフェテラスで

僕らの宇宙は
当たり前に丸くなる

僕と君に触れるために

指先がくすぐったくなったら
それは幸せだということにしておこう





美術館


いつか見た風景が夢に出るなら
すでに君は未来を嗅ぎ分けている

風の匂いも
薄い日差しも

巡り巡って明日になる

その先の記憶は鮮やかかい
葉っぱを透かした先には
やっぱり浮かんでいるんだね

君が飛ばしたいつかの口笛





浜松町


僕のとなりに君がいて
その向こうに僕がいて
僕は僕を見失う

整列という残酷で
僕は僕を見失う

世界が綺麗な球体なら
宇宙みたいに飛べるのに

僕は君のラインに沿って
幸せそうに並ばなくては

ジワジワと
空の色が落ちてくるのを
僕は静かに見上げている

手を繋いでよ
あと少しの想いで列は乱れる





海ノ中道


遠くて古い影が
記憶に覆いかぶさる
いつかの波の音と
快晴の潮の匂いが
足元からこみ上げる

夢中だったのは
君のせいじゃないと
強がってみせたのに
君は何も言わなかった

アスファルトはどこまでも続いて
あの道の目の錯覚は
今でも続いているのかな

ふいに
こみ上げる海の

記憶





春日


切り抜かれてしまったあとの
二人の形は
光と影のように
くっきりとした輪郭もなく

日常の光と影に
息をひそめている

ありふれた言葉の羅列に誤摩化されながら

いつかは悲しみも切なさも
伸びていく影のなかに
沈めてしまうのだろうか

さらけ出せるほどの光は
いつも刹那で終わってしまう





住田


君はいつも意味不明だった
意味不明の理由を探して
近くで目を合わせたり
遠くで観察したりした
でもいつまでたっても
意味不明の理由は明かされるわけでもなく
今では意味不明の意味さえ
分からない始末

君という存在は
分かるものではないと
分からないなら
感じるしかないと

触ってもみた
色んな触り方で

いつになったら色付くだろう
君はただじわりじわりとシミになって
僕の心に不思議を描く
意味不明の絵画を

それを快感と呼んでしまいそうな僕には
すでに意味など必要ないのかも知れない





奈多海岸


いつか見た果て
想いを馳せる果て
恐怖でも哀愁でもなく

想いが煮詰まって先を臨んでいる

音なら分かりやすい
打ち付ける波のように
鼓動がすべてを伝えるから

長くて短い一日とこれから





那珂川


混沌と隙き間
僕らみたいだ

黒と白が決して交わらない
器用に融合出来ない
それゆえに見ることができた
不思議な風景

僕は随分と迷子になった
肝心なところが隠されていて
どうでもいいところが露出する

隙き間から手を伸ばして
そっと手をつないだのは

もうずっと遠い昔のこと





美春ヶ丘


想像するのは
色のこと

世界に色がついた瞬間から
僕の歩く道にも
君の歩く道にも
色がついたというのに

出来上がる前の想い出は
いつも殺伐と色もなく

これからの景色に
僕らは怯えている
生み出された温かい記憶を
いつからなくしてまったのだろう

この世界には
僕らの心の片隅の
さらけ出せない無色の風景が
いつもどこかに転がっている





星ノ村


頼りない僕らの宇宙にも
時折花が咲くね

見逃さないように
時間を見つめている

焼き付けた瞬間に
消えるものと刻まれるもの

僕らはその不思議を
いつも探していたんだ

宇宙は朽ちることの意味を
花に咲かせる

今年もまたひとつ

消して
刻んで

そして生きていこう
僕らの宇宙の中でね





吉田 千人
Kazuto Yoshida

プロフィール
1962年福岡生まれ
1978年頃より写真を始め現在に至る